政府による推進のもと、急速に盛り上がりを見せているキャッシュレス決済。とりわけ、スマートフォンを中心としたモバイル端末を利用するQRコード・バーコード決済サービスのシェア争いは激しく、“キャッシュレス決済戦争”とも呼ぶべき状況になっています。

そして、この争いは単なるシェアの競い合いにとどまりません。キャッシュレス決済サービスに参入する各社はそれぞれ、個人の信用を格付けする「信用スコアリング」への取り組みを進めています。

そこで、本コラムでは、キャッシュレス先進国である中国の最新事情をご紹介するとともに、“キャッシュレス決済戦争”の先に待ち受ける「信用スコアリング」について探っていきます

中国のキャッシュレス最新事情

現在、中国都市部のキャッシュレス決済比率は、100%に近い比率に達していると言われています。そして、日常の買い物から公共料金、税金などの支払い、友人との割り勘やお年玉に至るまで、お金のやりとりのほとんどをスマートフォンで行っています。

総人口約14億人という中国の巨大なキャッシュレス決済市場を牽引しているのが、EC最大手であるアリババのグループ会社が手がける「支付宝(アリペイ)」と、IT大手のテンセントが手がける「微信支付(ウィーチャットペイ)」です。

総務省の資料(※)によると、この2大サービスの2016年度決済金額は2兆9,000億ドル(日本円で約307兆円)で、中国キャッシュレス決済市場の90%以上を占めています。日本のモバイル決済市場は1兆円程度ですから、桁違いの規模と言えるでしょう。

そして、中国社会のインフラとなりつつあるキャッシュレス決済は、現在新たな展開を見せています。その中心となっているのが、「信用スコアリング」です。信用スコアリングとは、AIなどを活用して信用レベルを数値化する仕組みで、「個人格付け」とも言うべきものです。

生活に密着したキャッシュレス決済情報をもとにしたサービスのため、存在感は非常に大きく、とりわけアリペイとデータ連携した信用スコアリングサービス「芝麻信用(ジーマクレジット)」は、中国社会に大きな影響力をもたらしています。

従来の信用スコアリングは、住宅ローンなど、金融機関で融資を受けるときの審査基準として使われることがほとんどでした。しかし、「芝麻信用」の活用範囲は融資にとどまりません。高スコアを獲得すると、各種金融ローンの金利が優遇されるほか、シェアリング系のサービスやホテル予約の際の保証金免除、シンガポールの個人観光ビザ申請手続きが簡素化されるなどのサービスが受けられます

このように、「芝麻信用」は信用をインセンティブとして社会的な恩恵を与える仕組みであり、中国では早くも“信用のインフラ”として認知されつつあります。例えば企業の採用に活用されているほか、一定以上のスコアを持つ人を対象とした会員制婚活サイトも登場しているほどです。

少なくとも中国においては、キャッシュレス決済の普及が「信用」に波及する形で、社会を大きく変えようとしています。

(※)総務省 平成30年版情報通信白書
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/h30.html

中国で信用スコアリングが成長した背景

中国で信用スコアリングが急速に成長した要因の1つは、中国政府が2014年から進めてきた「社会信用システム構築計画綱要」という7カ年計画の存在です。中国政府は2020年までに「社会信用制度」を構築すると宣言しており、そのためのサービスの候補として「芝麻信用」を指定しています。

このように政府主導で信用スコアリングを定着させようとしている背景には、国内で多発する不正取引を防止したいという中国政府の思惑があります。信用スコアリングによって「信用の可視化」を実現できれば、不正取引を減らすことができますし、また審査コストも大幅に圧縮できます。結果として、経済活動が活発化するだけでなく、中国社会に対する世界のイメージを変えることにもつながります。

中国政府の思惑だけでなく、国民レベルでも信用スコアリングを活用するメリットがあります。実は、中国は銀行口座を持たない国民が世界でもっとも多い国です。世界銀行の調査によれば、2017年時点で2億2,400万人が銀行口座を保有していませんでした。銀行口座がなければ、ローンを組むこともできません。

こうした層が、「芝麻信用」などの信用スコアリングサービスを活用することで、社会的な信用を築けるようになってきています。実際、中国の中央銀行である中国人民銀行によれば、2017年1~8月の短期消費者信用供与額は前年同期比で160%増を記録。これも、中国政府が目指す「社会信用制度」が構築されつつある裏付けと言えるでしょう。

「芝麻信用」の仕組みとは

キャッシュレス先進国である中国で、信用スコアリングサービスを牽引している「芝麻信用」は、今後世界中の同種サービスのモデルとなる可能性が非常に高いです。そこで、本項では、「芝麻信用」の信用スコアリングの仕組みについて紹介していきます。

総務省が2018年に公表した調査研究データによれば、「芝麻信用」の信用スコアリングは次の5つの領域でスコアを算出し、これらを合計したスコアで格付けを行っています。

1)身分特質(社会的地位・身分、年齢・学歴・職業など)
2)履行能力(過去の支払い状況や資産など)
3)信用歴史(クレジット・取引履歴など)
4)人脈関係(交友関係及び相手の身分、信用状況など)
5)行為偏好(消費の特徴や振り込みなど)

点数は最低で350点、最高で950点。それを5段階に分けて次のように評価しています。

350~550点 信用較差(やや劣る)
550~600点 信用中等(まずまず)
600~650点 信用良好(好ましい)
650~700点 信用優秀(優れる)
700~950点 信用極好(極めて良い)

600点以上のスコアを獲得すると、多くの優遇措置が受けられるようになります。例えば600点の場合、ホテル予約で保証金不要となるほか、アリババ系列の賃貸サイト経由で物件を借りると敷金が不要になります。650点だとレンタカーや図書館の保証金が不要に、700点だとシンガポールビザが取りやすくなり、750点獲得すると、北京空港で専用出国レーンを通ることができます

仮にすべての決済をアリペイで行えば「芝麻信用」で高スコアが獲得できるため、キャシュレス決済サービスとしてアリペイを選ぶインセンティブが働くと同時に、利用者のマナー向上につながるという副次的効果も指摘されています。

信用スコアリングは日本でも普及する?

信用スコアリングは、提供する事業者にとっても、利用者にとっても大きなメリットがあるサービスです。特に、「芝麻信用」が優遇措置としているシェアリング系サービスなどのCtoC分野では、借り手側の情報がほとんどないケースも多いため、高い需要が見込めます。

一方で、利用者の行動履歴の管理が必要となるため、プライバシー保護の観点から少なからず反発が生まれることも予想されます。また、中国ではすでに信用スコアリングが、就職や結婚といったライフイベントに大きな影響を及ぼしていることから、「監視社会」につながりかねないとの指摘もあります。

とはいえ、現状では「芝麻信用」が成功しているのは事実であり、日本でもキャッシュレス決済を手がける企業はそれぞれ、信用スコアリングの導入に向けて動き出しています。

例えば、ソフトバンク系列のPayPay(ペイペイ)は、日本でいち早く信用スコアリングを手がけたJ.Score(ジェイスコア)と連携しており、メルカリが手がけるメルペイは、信用スコアリングをもとにしていると考えられる「メルペイあと払い」を提供しています。

こうしたサービスが今後、どの程度日本で浸透していくかを見極めるには、キャッシュレス決済事業者各社の動向を注視していく必要があるでしょう。