このところ、国内で官民挙げたキャッシュレス化への取り組みが進むなかで、様々なキャッシュレス決済サービスが登場しています。そして、それぞれのサービスがユーザー獲得のためのキャンペーンを開催しています。

こうしたキャンペーンの特徴として、ユーザーへのキャッシュバックがあること、そして利用者全員にキャッシュバックされる金額の上限が「利用金額の20%」であることなどが挙げられます。

そして、本コラムでは、なぜキャッシュバック金額の上限が「利用金額の20%」とされているのか、その理由について解説していきます。

キャッシュレス戦国時代を象徴するキャッシュバックキャンペーン

2018年に登場したキャッシュレス決済サービス・PayPayは、リリースと同時に「100億円あげちゃう」と銘打ったキャッシュバックキャンペーンを開催しました。このキャンペーンでは、利用金額の20%(最大5万円)が全員に、さらに抽選で全額(最大10万円相当まで)キャッシュバックされるとあって、消費者やメディアから大きな注目を浴び、結果として1ヶ月で500万人以上のユーザー獲得に成功しました。

その後、LINE Payや楽天Pay、d払いといったキャッシュレス決済サービスも同様のキャッシュバックキャンペーンを展開。最近ではコンビニ大手のセブンイレブンで、LINE Pay、メルペイ、PayPayによる合同キャンペーンが開催されるなど、各サービスが入り乱れたユーザー獲得競争が繰り広げられています。

こうしたキャンペーンでは、キャッシュバック金額が多いほどユーザーからの反響も大きいと考えられます。一方で、いずれのキャンペーンでも利用者全員が受けられるキャッシュバックの上限金額は20%となっており、それ以上のものは見受けられません。

その背景には、「景品表示法」という法律の存在があります。

景品表示法とは?

景品表示法は、消費者庁が所管する、「不当な表示」と「過大な景品類の提供」を禁止する法律です。

「不当な表示」とは、広告などにより商品・サービスの品質や価格について、実際よりも著しく優良または有利であると見せかけ、不当に顧客を誘引することを指します。このほか、実際には販売できない商品を広告に掲載する「おとり広告」も、「不当な表示」に含まれます。

一方、本コラムに大きく関わりがあるのが「過大な景品類の提供」です。景品表示法では、景品類を「商品・サービスの取引に付随して、顧客を誘引する手段として相手方に提供される物品、金銭などの経済上の利益」と定義しています。

販売店が商品購入者に向けて景品類を提供する場合、その金額について景品表示法の規制を受けます。そして、規制された金額を超えた景品提供をすると、消費者庁または都道府県知事より行政処分を受ける可能性があります。

実際に、最近発生した事案では、大手新聞社とその販売所が、景品表示法の規制を超えて電動アシスト自転車や家電などの景品を提供したとして、大阪府知事による行政処分(措置命令)を受けています。

措置命令を受けた企業は「謹告文」と呼ばれる、いわゆる謝罪広告を新聞に出稿しなければならず、違反内容によっては、違約金を支払わなければならないケースもあります。

利用者全員に景品提供する場合、上限は「取引価額の20%」

景品表示法では、利用者全員に対して景品類を提供する際(総付景品)、購入金額が1,000円未満の場合は200円まで、1,000円以上の場合は購入金額の20%までと上限を取り決めています。

仮に、キャッシュレス決済事業者が20%を超えたキャッシュバックを行った場合、過大な景品類の提供に該当し、景品表示法により行政処分の対象となってしまいます。そのため、いずれの事業者もキャンペーンでのキャッシュバック上限を「購入金額の20%」に設定していると考えられます。

一方、上述したPayPayの「100億円あげちゃうキャンペーン」第一弾では、利用者全員への20%キャッシュバックに加え、抽選での全額キャッシュバックも行われました。

この企画について景品表示法と照らし合わせると、利用者に対して抽選(一般懸賞)で景品類を提供する際は、購入金額が5,000円未満の場合は購入金額の20倍まで、5,000円以上の場合は購入金額の10万円までが上限となっています。

「100億円あげちゃうキャンペーン」第一弾では、抽選で全額キャッシュバックとしつつも「10万円相当まで」という制限を設けたことで、規制をクリアしたと考えられます

知らないでは済まされない? 「事業者が講ずべき管理上の措置」

このような景品表示法を根拠とした規制について、「本コラムを読むまで知らなかった」という方は注意が必要です。

景品表示法は、キャッシュレス決済事業者だけではなく、たとえば、店舗独自でキャンペーンを行うような場合にも適用されるからです。

さらに、景品表示法の考え方についての社内への周知は、法律上、すべての事業者の義務とされています。

「レストランのメニューやポスターに前沢牛と表示しながら、実際に提供される牛肉の大部分は前沢牛ではなかった」
「メニューに北海道産と書かれたボタンエビは、実際にはカナダ産のものだった」

このような不当表示について、メディアを通じて目にした記憶のある方も多いのでは?

消費者庁はこれらの食品表示問題を受けて景品表示法の規制を強化。平成26年の法改正で、すべての事業者に「景品類の提供又は表示に関する事項を適正に管理するために必要な体制の整備」などを義務付けました。

具体的には、景品表示法の考え方の社内への周知・啓発、法律遵守のためのマニュアルなどの作成、法律違反とならないための確認体制の構築などが「事業者が講ずべき管理上の措置」として求められています。

そのため、キャッシュバックやプレゼントのキャンペーンを行う際には、必ず景品表示法の規制について確認し、不明な点がある場合には消費者庁の窓口などに相談しておくことが重要です。

コンプライアンス対策として、規制やガイドラインにもアンテナを

本コラムでは、景品表示法の規制について触れましたが、キャッシュレス決済に関連する規制やガイドラインはほかにもあります。

たとえば、セブンイレブンによるキャッシュレス決済サービス・7payの不正利用事件では、7payがキャッシュレス推進協議会(※)によるガイドラインの基準を満たしていなかったことが明らかになっています。

さらに、今後キャッシュレス決済が国内に浸透していくなかで、新たな規制やガイドラインが制定されることも考えられます。そのため、キャッシュレス決済を導入している事業者、また導入を検討している事業者についても、コンプライアンス対策として各種規制にアンテナを張っておくことが重要と考えられます。

(※)経済産業省および総務省、民間事業者、有識者により構成される団体。産官学の相互連携により、早期のキャッシュレス社会実現を目指す。